ゲイリーバートン来日記念「ゲイリーバートンが現代ジャズに与えた影響」

はじめに

今年の5月,ゲイリー・バートンがスティーブ・スワローやパット・メセニーを引き連れて来日公演をします。なので,ここではそれを記念して,ゲイリー・バートンについて簡単に語ってみたいと思います。

ゲイリーバートンのジャズ史における位置づけ

現在日本でもっとも有名なジャズミュージシャンとしてパット・メセニーやキース・ジャレットの名前を挙げても,あまり異論を称える人はいないでしょう。キースは数年に一度来日するたびにコンサートホールを満員にし,ジャズファン以外からも尊敬されるピアニストですし,パットは毎年グラミーにノミネートされ,やはり来日すればホール満員の動員を可能とするミュージシャンです。しかしこの著名な二人の現在がゲイリー・バートンから大きな影響を受けている…と認識してる人はどれくらいいるのでしょう?。パットもキースも若い頃ゲイリーとの共演歴があります。パットに関しては,ほぼ無名時代にゲイリーと共演しており,自身のグループであるパット・メセニー・グループの音楽性自体が,当初ゲイリーバートングループの音楽の延長線上にあったというのは,グループのピアニスト,ライル・メイズ自身がインタビューで語ってました(昔のジャズライフで読んだ記憶あり)。

しかし,パットやキースの評価に比べゲイリー・バートンは(当時のことを知っている古いファンはともかく)最近のジャズファンからあまり注目されてないように感じます。特にバイブ奏者としての評価は大きいのですが,音楽家としての評価はあまり聞きません。なので今回は,ゲイリー・バートンがコンテンポラリージャズに与えた影響について,考察してみようと思います。もちろん,わたし自身が当時の様子を知るはずもないため,当時のレコードを聴きつつ,推理したものです。

非ファンク系白人ジャズ(ECMサウンド)の創始者

音楽の変化をあるジャンルに限ってみた場合,その時代,どれくらい先端をいっていたのかを評価するのはとても難しいことです。そのジャンルの中で変化・発展したものなのか,それとも当時流行っていた他のジャンルのイデオムを単に借用したものなのか,というのは,当時の雰囲気を知らないとなかなかわからないものです。しかし,少なくともジャズは1960年代から,当時生まれてきたフォークやロック,R&Bの影響をうけ,主に70年代かなり多様な音楽として変化しました。それには幾つかの方向性があり,ブルースやファンクを取入れたマイルス達の他にも,またボサノバやラテンのビートを取入れた人たちもいます。ロックやクラシックの手法を取入れプログレッシブロックのような音楽をやった人たちもいます。そういう中でゲイリーはフォークロックやカントリーのサウンドをジャズに取入れ,それを即興音楽として昇華させたというのが,わたしの解釈です。そしてキース(のある種の音楽)や(初期の)メセニーはその流れにいたし,多くの白人プレーヤが演奏してるある種のコンテンポラリージャズは明らかにフォークロック的サウンドのジャズから発展したものでしょう。それはファンクの様に跳ねたリズムではなく,どちらかというと流れるような(跳ねない)リズム,またメロディー重視であり,コードもダイアトニックコードを主体につくられていて,ドミナント(モーション)色が弱いというものです。サウンド的にも歪みが少ないアクゥースティックなサウンドを主に使い,倍音が濁らないようにしたものです。さらにそれをより抽象的にし,即興性を高めたサウンドをECMレーベルは多く取入れ,そのような作品をたくさんリリースしてるように思います。そして,そういうサウンドを最初に示した人こそがゲイリーなのではないか?という気がします。

ゲイリー周辺の人達

さて,これからゲイリーの作品を上記の観点において,幾つか紹介します。正直に書くとゲイリーの作品は,共演者により印象がかなり変わりやすいです。またゲイリーは自身名義のアルバムでも,他者が作曲した曲を多く演奏しており,そういう意味でいうと,上にあげてきた,音楽のイノベーションはゲイリーじゃなく,共演者が作り上げてきたのかも知れません。例えば重要な作品ではスティーブ・スワローの曲が多く使われてますし,カーラ・ブレイの曲も結構演奏してます。またバンドサウンド面にしてもラリー・コリエルがいたことでロックのサウンドを取り込む形になった可能性もあります。仮にそうだとしても,曲の起用やメンバーの選択はゲイリーの意思だったと思います。またゲイリーのバイブサウンドがあってこそ,スタイルができあがった部分はかなり大きいと思います。

ゲイリーは1960年代に10代でチェト・アトキンスに見いだされてデビューし,それから自己のバンドを作り上げて行きました。もしかしたら,当時から物凄いスターで,多くの 革新的なミュージシャンを自分の意思で起用することが出来たのかも知れません。そしてそれがその化学反応によって起きたとしても,それはやはりゲイリーの寄与がとても大きかったと思います。

作品紹介

以下にわたしが重要と思う作品を挙げます。ゲイリーの流れのサウンドが確立しパット等が有名になった後(70年代後半)以降の作品は一つを除き挙げてませんが,これ以降もゲイリー・バートンは多くの共演者と共に優れた作品を産み続けています。まぁ現在はバークリーの副学長なので若手の育成もやってますが…。

Duster('67)

スティーブ・スワロー(b),ラリー・コリエル(g),ロイ・ヘインズ(dr)とつくったアルバム。 ライナーノートやいろんなところを調べると,当時このアルバムは「ジャズとロックの融合」という風に語られたそうですが,現在聴くと割と普通のジャズ。ベースはウッドだし,ドラムは結構スィングしてる。ただし,コリエルのギターはロック的要素を持っているので,そういう点でそういわれたのかも知れないのですが,当時は結構斬新な作品と評価され,また結構売れたらしいです。今聴くと地味ですが,ゲイリーがこの作品の成功を持って,新しいサウンドをつくっていった…と思うと重要な作品だと思います。 ちなみに67年というとマイルスはネフェルティティを出した年で,本格的なエレクトリック化は翌年のイン・ザ・スカイやキリマンジャロの娘あたりからでしょうか?…。

Quartet In Concert('68)

上記メンバーのうちドラムがボブ・モーゼスに変わったもののライブアルバム。ボブはその後のゲイリーバートンバンドでは長く共演しており,ボブとスティーブのリズム陣がある意味,ゲイリーのサウンドを支えたという意味では重要な出発点。 ただしこのアルバムでも,リズムは比較的ジャズ的。ただ一部,ロックポイサウンドがあったり,ボブ・ディランの曲をやっていたり…とフォークロックサウンドの取り入れが始まっていることがわかります。 改めて聴くと,ゲイリーのバイブのスタイル自体は,そんなに現在と変わってないこともわかり,最初からジャズ的なフレージングというよりは,オープンなコードで美しいメロディを弾いていたのがわかります。

Love Animal/Bob Moses('67)

ゲイリー・バートンは参加してません。ですが,ラリー・コリエル,スティーブ・スワローが参加しており,ゲイリーバンドと時期的にも被ってます。ついでに曲によりキース・ジャレット(p,sax)とジム・ぺパー(tp)が参加している,別の意味でも興味深い作品。 ここでのサウンドがゲイリーバンドと同じであれば,ゲイリーバンドのサウンドはサイドマンの寄与が大きい…と言えるかとも思ったのですが,このアルバムのサウンドはロック色は強いものの,結構ラウドでヘビーなロックであり,ゲイリーバンドとは微妙に方向性が異ることがわかります。

Gary Burton & Keith Jarrett('71)

最重要作品。 二人のリーダ作というネーミングですが,他のメンバーはサム・ブラウン(g),スティーブ・スワロー(b),ビル・グッドウィン(dr)でありバートンのバンドにキースが参加したという方が正しいでしょう。ゲイリーはキースの一歳年上だそうです。 ここでのキースはまさにジャズロックというかフォークロックを昇華したサウンドを作り出しており,かなりカッコイイです。かなりポップで実際このアルバムは結構売れたそうです。キースがこの手のサウンドを自分のバンドで出したのは,74年の「宝島」や「ビロンギング」であり(チャールズ・ロイドバンドのプレイに近いのもありますが),またキースが自分のアルバムで使ったギタリストはサム・ブラウンだけであることからも,キースがこのアルバムのサウンドを結構気に入っていたのではないかとわたしは想像しています。 とにかく今回挙げてるアルバムの中で絶対聴いて欲しいアルバムと言えばこれです。

Crystal Silence('72)

チック・コリア(p)とのデュオ。このアルバムも物凄くヒットしたので,聴いたことある人が多いと思います。 バンドサウンドという意味では多少本流を外れてますが,一方でゲイリーはピアノやギターとのデュオ作品をたくさん残しており,それはこのアルバムの成功が大きいのでしょう。 ちなみにゲイリーが初めてECMに吹き込んだのもこの作品であり,デュオ作品が多いECMも,この作品の成功が大きな影響を与えているのでしょう。この作品の企画がゲイリーのものだったのか,プロデューサのアイヒャーのものだったのかは,良く知りませんが…。

The New Quartet('73)

タイトル通り新メンバーでつくったアルバム。ミック・グッドリック(g),エイブラハム・ラボリエル(b),ハリー・ブラーザー(dr)。ただし,ミックはこの後ゲイリーのレギュラーメンバーに長く留まりますが,他のメンバーはこのアルバム限り。 今聴くと,普通です。メセニーとかジョン・アバークロムビー辺りの初期のサウンドを更にシンプルにしたようなサウンド。但し,それはこのアルバムのサウンドが後に普遍化したせいであり,この時点でこのサウンドを作り出したのは,この作品だと言えるでしょう。

Ring('74)

パット・メセニー(g)が初めて参加したアルバム。他はミック・グッドリック,スティーブ・スワロー,ボブ・モーゼスというお馴染のメンバーに,なぜかエバーハルド・ウェバー(b)がフィーチャリングで銘打たれてます。 前年の「The New Quartet」のポップさに比べると内省的で多少アバンギャルド。ECM的な美しくもちょっと不気味で浮遊感のあるサウンドに仕上がってます。

Passengers('76)

メンバーはRingのドラムがダン・ゴッドリーブに変わった作品。これもギターとベースが二人ずついます。Ringに比べるとパットの色が強くなり,そのままパットはメセニーグループをつくったのだな…っていうのが良くわかる作品。

Like Minds('97)

上まではキースやパットがスタイルをつくるまでの流れを追っていたのに対し,この作品は大スターになったパットと御大ゲイリーの再会セッションアルバム。他のメンバーは,チック,ヘインズ,そしてデイブ・ホランド(b)というこれまた物凄いメンバー。 でも何がすごいか…っていうと,これだけ強烈なメンバーでのセッションながら,ゲイリーが一番の存在感を示していること。もちろんゲイリーのアルバムですから,そういう風につくってるのでしょうが,この時期から現在に至るまで絶好調のパットをおいてしても,ゲイリーにはかなわない…という,まさに現在もこの手のサウンドの第一人者であることを実感したアルバム…という意味で,このアルバムを最後に挙げておきます。

   

最後に

以上,是非聴いて頂きたいアルバムを挙げさせて頂きました。これを機にゲイリー・バートンの事を理解して頂くと,今年の来日セッションのおもしろさも増すことだと思われます。 では。ありがとうございました。

by TARO:May 15th, 2006


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Last-modified: Tue, 16 May 2006 09:09:06 JST (4117d)